マグロ養殖における日常作業

出荷までの作業工程の種類

マグロ養殖の原料として種苗を確保してから、出荷するまでの工程は次のように分けられる。これらの工程の全てを同一業者が実施しているわけではなく、立地条件や養殖業者の体力等に応じて分業しています。

作業工程の種類 時期または期間 備考
種苗の確保 毎年7月頃から秋

養殖の原料となる種苗(天然または人工)を仕入れる。

種苗の馴致(餌付け) 2週間から数ケ月

安定して餌を食べるまで環境変化に慣らす。

飼育 1.5~3年

餌付けされた種苗を生簀に収容してから、餌を与えて、出荷サイズ(30~50キロ)まで大きく育てる。与える餌の量と種類は成長によって変えていく。成魚まで育成して出荷するのではなく、中間魚(2~5キロ)を種苗として他のマグロ養殖業者に出荷する場合もある。

出荷 毎年秋から

顧客の要望に応じて成魚を出荷する。

種苗採捕から餌付けまで

①種苗の種類

我が国のマグロ養殖の種苗の種類は、天然種苗(「ヨコワ」と呼ばれることが多い)と人工種苗に分けられます。 天然種苗を捕獲する海域と時期は限られて、天然種苗は年によって不漁の場合もあり、資源保護も大きな課題であり、水産庁は未成魚の漁獲管理を強化しています。 マグロ養殖業者は経営安定のため、必要な種苗を確保するための努力を続けてい ます。

種苗の種類 大きさ(一例) 出荷までの飼育期間(一例)
天然種苗 曳縄または一本釣り 体重100~500g 2.5~3年
旋網 体重2~5kg 1.5~2年
人工種苗 体重300~500g 2.5~3年

種苗を捕獲して飼育する生簀に収容するまでの流れを以下に示します。

②成長速度

生簀で飼育中に充分な餌を与えることで、養殖マグロは天然魚より早く成長します。 また、曳縄で捕獲した当歳魚よりも旋網で捕獲し1歳魚を飼育したほうが、1年程度早く出荷サイズに成長します。

飼育している海域の水温が高いほど、餌を多く食べるので成長が早い。そのため、種苗を飼育海域の近海で確保できないが海水温が高い奄美大島に種苗を移動して飼育している企業があります。

下の図(養殖2011年8月号から)は、長崎県対馬での養殖マグロの成長速度(実績)を示しています。

③人工種苗

人工種苗の研究が進み、近畿大学、マルハニチロ、日本配合飼料 +極洋、ニッスイ等は生簀で飼育した養成親魚に産卵させ、それを採卵、孵化、沖出しして人工種苗を確保する技術開発を進めています。

近畿大学は生産した人工種苗をマグロ養殖業者に販売しています。人工種苗を入手して成魚まで飼育して出荷している企業もでています。

水産庁の調査によると、平成24年に7.3千尾の人工種苗由来の成魚が出荷されています。

人工種苗を飼育して親魚を養成し、その親魚から種苗を確保する「完全養殖」という段階にまで養殖技術が進歩しています。 採卵から沖出し、出荷までの歩留まりを向上させることができれば、マグロ養殖種苗の安定確保につながります。

西海区水産研究所(長崎市)に「まぐろ飼育研究施設」が完成し、 2013年6月から人工種苗由来の親魚を水温・照明制御可能な陸上水槽で養成して産卵させる研究が進められています。 2014年5月に、陸上水槽で飼育している親魚が産卵し、採集した受精卵が孵化させました。

受精卵が孵化後、餌用孵化仔魚を充分に与える必要があります。いつ産卵するか不明でもあらかじめ他の魚種(キスなど)の仔魚を準備することが大変な作業です。最近、人工孵化仔魚に与える配合飼料の研究が進み実用化が近づいています(水産総合研究センター+鹿児島大学+林兼産業、ニッスイ)。 この配合飼料が完成すれば、受精卵を移送して必要とする海域に移動させることが可能になり、人工稚魚移送時の減耗を減少させることが期待できます。

豊田通商は近大産の人工種苗を中間魚に育成して販売してきました。 人工種苗を安定供給するために、採卵したクロマグロの卵を孵化し稚魚まで生産する陸上水槽施設(五島種苗センター)を長崎県五島市に開設しました(2015年7月23日)。

人工種苗由来の生産量が増えています。天然種苗の不漁もあり、2015年に出荷された養殖クロマグロの6%が人工種苗由来でした。

④曳縄漁

マグロは常に泳ぎ回っていて、人の手が触れると弱るという習性があります。 曳縄や一本釣りの場合には、釣り上げたときに針等で傷つけず、必要量の健苗を確保することが、歩留向上につながり、経営上の重要な要因のひとつです。 ヨコワ漁の実状を、長崎県上五島の養殖経営体である(有)徳丸が公開しています。

⑤旋網

旋網漁法は、帯状の網で魚群を包囲して漁獲します。旋網船団は、魚群を探す探索船、旋網船、魚を集める灯船、魚を漁場から水揚基地まで運ぶ運搬船、合計5~6隻で構成されます。

旋網船から馴致(餌付け)する海域までの運搬方式として「活魚船運搬方式」、「生簀曳航方式」があります。

⑥馴致(餌付け)

確保した種苗を受け取り、環境変化でストレスの溜まった種苗が落ち着いて餌を食べるまで馴致生簀に収容します。餌付けが終了すると飼育用の生簀に移します。 馴致用の生簀と飼育用の生簀は同一海域の場合もあれば、活魚船、バージ船等で移動させるような離れた海域の場合もあります。

飼育

マグロ養殖業者は入手した種苗を飼育する生簀に移し、餌を与えて出荷時まで飼育します。
ほぼ毎日のように実施する作業の種類として、

等があります。

写真①

写真②

写真③

写真④

写真⑤

写真⑥

マグロ養殖では大量の生餌(主にサバ、イワシ)を使うため、大手企業は複数の冷凍コンテナを作業岸壁に設置し、冷凍コンテナから必要量の生餌を取り出して給餌しています。 給餌作業は日に1~2回で、解凍した生餌をスコップで生簀に放り投げてマグロに与えている例と、給餌船から放出する例があります。 双方とも従業員が摂餌状況を見ながら、食い残しがないようにしてコストと環境に配慮し、定期的にダイバーが生簀内を監視しています。 海洋生物が網に付着して生簀内の潮通しが悪くなると網を洗浄しています。

出荷

顧客から出荷の要請があると生簀内のマグロを釣り上げる方法が主流で、一部に網で巻く(網取り作業)、ダイバーが抱えるなどの手法で水揚げします。

作業船上でマグロを氷槽の中に入れて岸壁へ輸送します(写真⑤参照)。 岸壁に到着すると、水洗いし、船からクレーン等で陸に移動します。陸上で箱に氷詰めして翌朝まで冷やします。

翌朝、水洗いしてマグロと氷を一緒にビニールでくるみ段ボールや発泡スチロール箱積めしてトラック等で空港・港等へ輸送します。

離島の場合、本土への夜行フェリー内で翌朝まで冷やし、本土で箱詰めを実施している例もあります。

養殖マグロを出荷する際に、体重の約2倍の氷を必要とされるといわれます。このため、マグロ養殖漁場の近くに充分な製氷能力を必要とします。

水産庁の調査によると、 2011年に鹿児島県から出荷された養殖マグロの平均体重は66kg/尾、長崎県から出荷された養殖マグロの平均体重は43.6kgでした。

マグロ養殖場の事故

赤潮:長崎県五島市の福江島では、降雨、風向き等の影響で赤潮が発生し、生簀のクロマグロが斃死したことがあります。 他魚類と比較してクロマグロは1/10程度の低密度の赤潮で斃死しました。

豪雨による海水汚濁:豪雨の後、川から流れ込んだ汚れた水で海水が汚濁し、生簀のクロマグロが斃死することがあります。

台風:2015年台風11号の波浪ため、和歌山県串本町では1万尾のクロマグロが斃死し、被害額は12.9億円にのぼりました。 この被害には生簀が破損して逃げ出した分は含まれていません。串本町では、2013年台風18号で、約1300尾が斃死し、被害額は約7000万円でした。 2012年台風12号の被害等で撤退した事例(和歌山県内)もあります。

津波:2011年東日本大震災の津波で生簀が破損し、飼育していた5000尾が流出したという例があります(三重県)。この津波で斃死例(串本町)もあります。