マグロ養殖の現状
マグロ養殖、マグロ漁等を紹介する動画例の紹介
マグロ養殖で実施している作業についてこちらのページで紹介しています。
世界と日本でのマグロ類の漁獲制限については、こちらで紹介しています。
ブリ、マダイ、ギンザケ、マグロ養殖を中心に各地の魚類養殖漁場のGoogle地図への表示プログラムの機能とデータを一新しました。(2015-11-17)
まぐろの種類
日本では、クロマグロ、ミナミマグロ(別名:インドマグロ)、メバチ、キハダ、ビンナガなどのマグロが消費されています。このうち高級マグロといわれるクロマグロとミナミマグロ等が内外で養殖対象となっています。
日本のクロマグロ消費は多いですが世界で日本だけがクロマグロを消費しているわけではありません。ローマ帝国時代にローマ人はクロマグロを食べていた(田口一夫,2004,黒マグロはローマ人のグルメ)ように、地中海沿岸でクロマグロが消費されています。また、所得の向上した人口の増えている中国に長崎県から養殖マグロが輸出されています。
世界で漁獲されるまぐろの種類
名称 | 分布・生態等 | 利用 | 備考 |
---|---|---|---|
クロマグロ 別名:ホンマグロ等 |
主に北半球の温帯から亜熱帯に生息します。 |
肉質・味:マグロ類中で最も深みのある味で、脂ののりもよい。 |
地中海、メキシコ(太平洋岸等)で蓄養され、主に日本に輸出されています。インド洋には分布しません。 |
ミナミマグロ 別名:インドマグロ,豪州マグロ |
南半球の温帯域にすみ、クロマグロに似るがクロマグロほど大きくなりません。 |
肉質・味:赤身が濃く、味も濃厚で脂ものっていてクロマグロに次ぐ高級品といわれます。 |
豪州沿岸(南岸のポートリンカーン近郊等)で蓄養が盛んに行われ、安価なトロとして日本に輸出されています。 |
メバチ 別名:バチ |
世界の熱帯~亜熱帯域に分布します。 |
肉質・味:クロマグロ・ミナミマグロに較べ脂は少なめだが、赤身が濃くトロの部分もある。 |
値段も比較的安いので、量販店や飲食店で広く流通しています。 |
キハダ | 世界の熱帯~亜熱帯域に分布します。 |
肉質・味:脂は少なめで淡白であっさりとした癖のない味。 |
関西で好まれます。 |
ビンナガ 別名:ビンチョウ、トンボ |
太平洋、インド洋および大西洋の温帯域に生息する小型なマグロ。 |
肉質・味:肉は白っぽく、柔らかい。味は淡白だが高緯度水域で獲れたものは脂がのっている。 |
近年、回転寿司で「ビントロ」として出回っています。 |
http://fsf.fra.affrc.go.jp/maguro20/maguro20.htm(遠洋水産研究所)に加筆
各種のマグロ漁法
我が国の漁業は、沿岸漁業、沖合漁業(近海漁業とも呼ぶ)、遠洋漁業に分けられ、遠洋漁業の冷凍物・養殖用を除き生鮮ものとして水揚げされます。大小のクロマグロは、一本釣り、曳縄漁、延縄漁、旋網漁で漁獲されます(下の図で○は主に鮮魚出荷用、△はマグロ養殖の種苗用)。(参考:漁法を紹介する気仙沼漁協のページ)
マグロ養殖の原魚となる天然種苗は、曳縄漁、旋網漁で漁獲され、漁獲した種苗を手で触ることなく養殖業者に引き渡されます。養殖業者に活きたヨコワを引き渡すことを前提とした場合には、そのための活魚輸送設備を装備して出漁します。
漁業の種類 | 一本釣り | 曳縄 | 延縄 | 旋網 | |
---|---|---|---|---|---|
沿岸漁業 | 日帰りできる程度の沿岸部で行われる小規模な漁業。10トン未満の動力船を使用して行う漁業。 |
○ | ○△ | △ | |
沖合漁業 | 10トン以上の比較的大型の漁船を使用して排他的経済水域(200海里水域、EEZ)内の沖合水域で行う漁業。近海漁業ともいわれる。 |
○ | ○ | ||
遠洋漁業 | 自国の排他的経済水域、公海、外国の排他的経済水域等における大型船による漁業。航海期間が長く、船上で急速冷凍する。 |
○ |
マグロ漁船の一例を写真で示します。
曳縄船 (写真の船は活魚輸送の装備を装着していない)。 対馬にて |
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延縄船(19トン) 気仙沼にて |
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延縄船(119トン) 気仙沼にて |
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旋網船団を構成する漁船群 五島にて |
クロマグロ等の出荷ルート
天然の大型クロマグロは、漁獲した産地から築地市場に大物として送られてセリにかかります。 築地市場の仲卸業者が引き取って解体し取引先に販売されます。東京都中央卸売市場統計の「まぐろ(生鮮)」では、天然と養殖の合計量を示しています。
養殖マグロのほとんどは産地の養殖業者または漁協から販売契約している取引先に送られます。このとき、迅速に決済するために伝票だけが築地市場を経由することもあります。 このため、築地市場のセリ場に並ぶ機会はほとんどないでしょう。取引先でマグロを解体して量販店、小売店等に並びます。
わずかですが、漁協が養殖マグロ1本を通信販売、産地の養殖業者が解体して小分けした養殖マグロ(生鮮または冷凍)を通信販売している例もあります。特定のマグロ養殖業者のマグロを取り扱う鮮魚専門小売業者もあります。
海外からの生鮮マグロ(天然または蓄養)のほとんどは成田空港に到着し、一部は築地市場に送られます。成田空港近くの加工場で解体されてから量販店、小売店等に並びます。成田空港が一名「成田漁港」といわれるゆえんです。
遠洋船が漁獲した冷凍マグロ、海外船が漁獲・畜養した冷凍マグロの多くは、清水(静岡県)、三崎(神奈川県)などに水揚・輸入されます。
世界でまぐろ漁獲量は年々減少
FAO(Food and Agriculture Organization of the united nations 国連食糧農業機関)が集計した主要マグロの漁獲量は以下のように減少しています。 このため、関係国が集まって海域・魚種・国別に漁獲量を制限しています。漁獲制限が効果を現し資源回復している魚種もでてきています。
当会の試算(2010年)では、世界で漁獲・養殖・畜養された天然魚(太平洋クロマグロ、大西洋クロマグロ、ミナミマグロ)、養殖クロマグロ(日本産)、蓄養マグロ(太平洋クロマグロ、大西洋クロマグロ、ミナミ マグロ)の70%以上を日本が漁獲・養殖または輸入しています。図をクリックするとさらに大きな図が表示されます。
我が国のクロマグロ漁獲量(主要港における水揚量の総計)は年々減少しています。(下左の図)
東京中央卸売市場に上場されるクロマグロ(国産と輸入)の取扱量は2010年頃まではほぼ一定でした。その後、増加傾向です。(下右の図)
マグロ養殖の方式
海外では主として6~7ケ月の短期蓄養方式で養殖されています。大西洋クロマグロ(トルコ、マルタ、クロアチア、チュニジア、スペイン、イタリア等)・太平洋クロマグロ(メキシコ)・ミナミマグロ(豪州)だけでなく、最近はメバチ、キハダの蓄養も増えています。 地中海では、種苗の漁獲制限強化の影響で蓄養業者が減少しています。
畜養マグロは生鮮品(航空運賃が高価)だけでなく、冷凍品として船便で日本に輸入されています。
我が国では、近海で捕獲した天然種苗を2~3年かけて成魚まで飼育して出荷している方式が主流です。
短期蓄養 | 養殖 | |
---|---|---|
マグロの種類 | クロマグロ、 ミナミマグロ(インドマグロ)など |
クロマグロ |
海外での例 | 地中海、メキシコ、豪州など | クロアチア |
日本での例 | 京都府伊根、島根県隠岐 | 各地 |
種苗の大きさ | 体重20~60kg | 体重:100~500g(天然種苗) |
飼育期間 | 6~7ケ月 | 2~3年 |
近畿大学で1970年からクロマグロの完全養殖に向けた研究がはじまり、2002年に完全養殖(天然のクロマグロ種苗を養成した親魚から産卵、孵化した人工種苗を育成した人工親魚から採卵、孵化して人工種苗を育成する)に成功しました。 近畿大学は、2007年から人工種苗を販売し、それを導入して飼育・出荷しているマグロ養殖業者も増えてきています。他の民間企業でも完全養殖に向けた研究(産卵、採卵、孵化、飼育、配合飼料等)が進んでいます。
養殖マグロの利点は、2~3年程度で30キロから50キロ以上の成魚に成長する(成長速度は天然の倍近い)、品質が揃っている、需要に応じて計画的に出荷できる、価格が安定している点である。
マグロ養殖作業の種類の紹介はこちらから。
マグロ養殖に適した海域
海水温が高く、広い漁場、安定して種苗と生餌確保できるマグロ養殖に適した海域は少なくなっています。当会では、波の荒い沖合での養殖用に浮沈式生簀を開発しました。
選定項目 | 選定条件 | |
---|---|---|
漁場環境 | 漁場の水温 | 水温10℃以上、 |
水深 | 30~50m |
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河川流入 | 大きな河川からの流入がない(塩分濃度の変動が少ない) |
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波浪 | 5m以下(北西の季節風を受けない) |
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潮通し | 溶存酸素に富み塩分濃度の安定した外洋に面した海域 |
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種苗の確保 | 周辺海域で種苗を確保できる |
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生餌の確保 | 周辺海域で生餌を確保し、周辺の冷凍庫で保管できる |
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出荷時のインフラ | 出荷時に多量の氷を必要とするため、安価な氷を安定して入手できる製氷施設、冷蔵施設が整っている |
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地元との協議 | 地元漁協と信頼関係を確立できる |
マグロ養殖と他の魚類養殖との差異
マグロ養殖が他の魚類養殖と異なる点を以下の表に示します。
マグロ | ブリ類 | マダイ | |
主な産地 | 鹿児島・長崎・愛媛・高知 | 鹿児島・愛媛・大分 | 愛媛・熊本・三重 |
年間生産量 | 10千トン(2013年) | 150千トン(2013年) | 56千トン(2013年) |
飼育期間 | 2~3年 | 1.5~2年 | 1~2年 |
出荷時サイズ | 30~50kgが主流 | 3~7kg | 1~2kg |
種苗 | 天然種苗が主流、 一部で人工種苗 |
天然種苗、一部で人工種苗 | 主に人工種苗 |
餌飼料 | 生餌が主流、一部で配合飼料 | 生餌、配合飼料 | 配合飼料 |
自動給餌機 | なし | 一部で利用 | 利用例が多い |
生簀の大きさ | 直径20~30m、40m~80m角 | 1辺が8~10m角生簀が主流 | |
分養作業 | なし | 成長に伴って、選別して分養、生簀数増間 引き出荷する場合、生簀数は増えない |
|
魚病用ワクチン | なし | あり | あり |
生簀内の尾数 | 活入れ時に計数可能 | ワクチン投与時に尾数の計数可能 | 活入れ時に計数可能 |
我が国でマグロ養殖を行っている海域
当会の調査によると、日本全国でマグロ養殖を行っている事業場数は約95です。同一企業が複数の漁場(同一県内の場合あるいは他県)を所有している場合には、それぞれをカウントしてい ます。
(注) 2008年11月1日現在で実施された 2008年漁業センサス では マグロ養殖を実施している経営体は 68 です。
日本国内の主なマグロ養殖漁場(1漁場に複数の事業場あり)と種苗漁場を以下の地図に示しています。
マグロ養殖に参入した事業場数推移
近年、マグロ養殖に参入した事業場が増加してきました。ここでは、複数の個人からなる協業体、有限責任事業組合(LLP)、漁業協同組合などは1 事業場とみなしています。(2012年9月現在)
記載している数字のうち、2007年以前の数値は当会のアンケート調査結果と新聞・雑誌等に記載されていた公表情報から推定したものです。アンケート未回答の業者もいましたので、実情より少なめですが参入が増加した時期と傾向を知ることができます。2008年以降は新聞等からまとめたものです。
年 | 新規加入件数 | 備考 |
2002年 | 2 | |
2003年 | 4 | |
2004年 | 1 | |
2005年 | 1 | |
2006年 | 3 | |
2007年 | 10 | |
2008年 | 12 | |
2009年 | 5 | |
2010年 | 4 | |
2011年 | 6 | |
2012年 | 0 | ー2件(石川県と和歌山県) |
2013年 | 0 | |
2014年 | 0 | |
2015年 | 2 | 沖縄、大分 |
2016年 | 1 | 長崎 |
マグロ養殖事業者の業態分類
当会が日本のマグロ養殖業界を調査したところ、業態の種類として、種苗採捕(曳縄か旋網)、馴致及び中間魚育成、成魚育成に分けられます。
完全養殖による人工種苗も入手も可能になってきましたが、日本のマグロ養殖は種苗確保を天然資源に大きく依存しており、そのため、種苗から成魚まで飼育して出荷するという大資本を必要とする業態の他に、種苗の馴致のみ、馴致及び中間魚を出荷する、中間魚から飼育するなどと資金回収期間の短い業態もでてきています。
近くに種苗漁場のないが海水温の高い沖縄、奄美等では中間魚を他県から輸送し、成魚に飼育して出荷しています。
一方、人工種苗の生産、人工種苗を用いたマグロ養殖の業態を次のように整理することができます。
マグロ養殖の盛んな県
日本のマグロ養殖産業は年300億円を越える産業に成長しました。マグロ養殖の盛んな県は、鹿児島県、長崎県です。それに続き、和歌山県・三重県・高知県・愛媛県・大分県等が盛んです。
主に当該自治体が中心になった次のようなマグロ養殖振興に係わる組織があります。この他に、五島市、松浦市、串本町等が自治体としてマグロ養殖を支援しています。
鹿児島県 | クロマグロ養殖振興協議会(2012年から) |
長崎県 | 長崎県マグロ養殖協議会(2008年から) |
高知県 | マグロ養殖振興検討会(2012年から) |
次の写真は、2013年1月11日に開催された長崎県マグロ養殖協議会です。左は基調講演、右は関係者の会議です。
養殖マグロに関する統計
2010年まで、マグロ養殖に関する全国的な統計がありませんでした。当会が、都道府県の聞き取り調査、各企業が公表している計画値、種苗(天然及び人工)の確保状況と歩留等を集計して推計した数値(2011年分は水産庁が公表した確定値)を以下のグラフに示しています。
水産庁が2010年から養殖マグロに関する情報取得を開始し、調査状況の一端として2011年4月1日にマグロ養殖業者リストが公表されました。 その後、2012年11月、2013年12月に更新されています。 この1年の違い(許可されている漁場数で企業数とは異なる)を下の図に示しています。
2012年3月30日に平成23年における国内のマグロ養殖実績が初めて公表(2011年速報値)されました。 それによると、平成23年(2011年)の出荷尾数は全国で175千尾(確定値は190千尾)、出荷重量は9,044トン(確定値は10,224トン)でした。
2013年3月29日に平成24年における国内のクロマグロ養殖実績について(速報値)が公表されました。
同時に平成23年(2011年)の確定値も公表されました。
2014年3月31日に平成25年における国内のクロマグロ養殖実績について(速報値)が公表されました。
- 各県で設置されているマグロ養殖生簀数が公表されました。
- 長崎県の天然種苗数が復調ぎみです。
- 人工種苗の沖出し数は前年並みでした。
- 出荷されたマグロの1尾当たりの重量は、40~70弱kgでした。
養殖マグロの原料となる種苗を計画通りに入手することは難しく、天然種苗不漁の年もあります。 2005年と2009年は不漁、2010年は日本海側で不漁、2011年は豊後水道で不漁、2012年は全国的に不漁でした。 人工種苗も安定した生産が実現していません。
2007年・2008年に新規参入した事業場が、2010年~2011年の養殖マグロ出荷量増大に寄与しています。 新規参入が落ち着いてきたため、今後は活入れ数の増減、人工種苗の歩留が生産量に影響してきます。
そのため、世界と日本でのマグロ類の漁獲制限、水産庁による日本近海での資源管理の強化と完全養殖における人工種苗の安定した生産の研究(産卵時期の制御、生残率の向上、歩留の高い健苗確保、配合飼料等)が進められています。
赤潮や台風等の事故、需給状況の変動(場合によっては、生産者は出荷時期をずらす)、旋網による種苗採捕、人工種苗の歩留向上等で推計値は変動する場合もあります。
2014年の県別出荷量他が水産庁から公表されました。 鹿児島県の出荷量が減り(前年の90%)、長崎県(150%)、大分県(336%)、三重県(186%)、和歌山県(427%)の出荷量が増大しました。 その結果、長崎県が鹿児島県を抜いて日本一です。 以下、鹿児島、大分、高知、三重、和歌山、愛媛と続きます。宮崎が初めて統計に現れました。
水産庁から公表された県別のマグロ養殖漁場数を平成24年11月と平成25年で比較した図です。
海外のマグロ養殖に関する統計
FAOが世界の養殖に関する統計を集計して公表しています。2011年までの統計データが2013年3月に公表されました。FAOマグロ養殖に関する統計にまだ日本の生産量は含まれていません。
日本を除く国の養殖生産量(太平洋クロマグロ、大西洋クロマグロ、ミナミマグロの合計)は9~13千トンです。主要な生産国は、オーストラリア、クロアチア、マルタそしてメキシコです。
主要4国の2011年生産量は、オーストラリアは2010年の60%、クロアチアは95%、マルタは97%、メキシコは177%です。メキシコを除いて生産量は減少傾向です。
日本の養殖マグロ生産量(当会の推計)の世界マグロ養殖生産に占める割合は約40%~50%で、割合と生産量は増加傾向です。
まぐろ類の漁獲と流通(輸入を含む)に関する統計
まぐろ類の流通に関する統計で取り扱われている品目を以下の図に示します。
マグロ養殖の今後に向けた課題
マグロ養殖産業は2011年に約300億円の規模に発展しています。産業の発展に向けた課題として、①マグロ養殖に適した広い海域の確保、②種苗(天然種苗または人工種苗)の安定確保、③餌の安定確保(仔稚魚育成段階、成魚育成段階)、④クロマグロを購入可能な消費者の購買力があげられます。②、③について養殖技術の強化策が実施されています。
全国的なマグロ養殖技術に関する組織として、有力なマグロ養殖業者、研究団体から構成される「クロマグロ養殖技術研究会(事務局は水産総合研究センター、2012年から)」(前身は、「クロマグロ養成技術交流会」、年1回の会合が21回開催されました)があります。 近年はこの会議で人工種苗の安定確保が大きな話題になっています。
クロマグロ養殖技術の強化
マグロ養殖の種苗として、水産庁の調査(2013年3月29日公表の確定値)によると平成23年に539千尾の天然種苗、214千尾の人工種苗が活け込みされました。 天然種苗は年によって採捕される尾数の変動が大きく、不漁で活け込み数が減ることもあります。
資源保護の動向に左右されることなく養殖クロマグロを安定して市場に提供できるように、天然種苗の代わりに人工種苗を用いた完全養殖技術を主体に、次のテーマで産官学が連携して研究を進めています。
人工種苗を確保するために計画的採卵 |
海水温の変動等で親魚が産卵行動することがわかってきました。
しかし、自然の海域で産卵行動をおこしやすい条件を作り出すことは難しく、年によって採卵回数の変動が非常に大きいのが実情です。 |
人工種苗の育成用の配合飼料 | 採卵・孵化させた後、仔稚魚に対し充分な量の餌(日齢20日頃までワムシ、アルテミア、日齢15日を過ぎると餌用孵化仔魚等)を確保することが課題になっています。 大量の餌用孵化仔魚の確保には困難が伴い、餌用孵化仔魚等の代わりに与える配合飼料が開発されています。 |
人工種苗の生残率の向上 | 採卵してから人工種苗として養殖業者に販売できるまで、共食いや沈降・衝突などで多くが斃死しています。 |
育種技術 | 3年で産卵でき、高い生残率、抗病性をもったマグロ優良品種を作り出すための研究が進んでいます。 |
クロマグロ養殖技術の普及 | 産官学マグロ養殖関係者の交流を通じて情報交換すると共に、マグロ養殖に関する実用技術の体系化に取り組んでいます。 |
クロマグロ養殖に関するトピックス → 水産庁/まぐろに関する情報
太平洋クロマグロの仔稚魚分布調査
マグロ養殖で活け入れする天然種苗の安定確保と資源保護に向け、南西諸島と日本海でクロマグロの産卵海域をつきとめる調査が進んでいます。(水産庁の報道発表・2012年11月27日)
長崎発 旨い 本マグロまつり(2013年1月12日)
生産量第二位の長崎県が量から質の向上を目指しているマグロ養殖を市民にアピールするイベント(クロマグロ刺身品評会、クロマグロ創作料理試食会、クロマグロ解体ショー、生クロマグロ即売会)を開催しました。
女子美術大学が制作したキャラクターも紹介されました。
左:県内の9社から出品された養殖マグロの刺身(赤身、トロ、大トロ)品評会で審査する審査員
右:飼育した約40kgのホンマグロを解体するトロの華・西山産業の西山社長、解体したマグロを、多くの参加者が試食しました。
飼育されているクロマグロの公開展示(水族館)
クロマグロが次の水族館で飼育展示されています。ぜひ、クロマグロの遊泳を水槽でご覧ください。ただし、水族館の都合で展示されていないときもあります。
・かごしま水族館 毎年、笠沙周辺(薩摩半島西岸)、甑島周辺で捕獲したヨコワが 黒潮の海・黒潮大水槽 でジンベイザメ等と一緒に遊泳しています。 葛西臨海水族園と比較して小型のクロマグロが高速で遊泳しています。
上の写真:キハダマグロ(水族館受付に魚種名を質問した回答です) 2015年11月
・葛西臨海水族園 最大で体長1.6m(推定体重80kg、2012年9月現在)もある大型のクロマグロが飼育・展示されています。午後、館員の説明付きでクロマグロへ イカ、アジ、ソーセージタイプの配合飼料など給餌する様子を真横から見ることができます。
左右から中心に向かってクロマグロが泳ぎ、中央でぶつかることなく交差しています。1999年に展示水槽内で初めて産卵し 、その映像が記録されました。
給餌(毎日14時半)の際には、餌は画面上方から落ち、多数のマグロが餌に集中してきます。他のマグロとぶつからないように急旋回と速度変更するために、いつもは隠れている鰭が見えます。水族館では、養殖のように飽食させることはなく少量の餌を与えるのみなので給餌はすぐに終わります。1日に合計で83~84キロの餌が与えられています(2012年9月の場合、この量は、水槽内のマグロの総体重から推定して決められます)。
水槽内でターンで減速するときに、飛行機のフラップのように隠れていた鰭が現れ、また隠れるところを真横から見ることができます。
2015年1月、原因不明で水槽内でクロマグロ等の斃死がはじまりました。(下左:多数のクロマグロ、下右:3匹に減少)、2015年3月24日に残り1匹まで減少しました。
最後の1匹になったマグロ(2015年3月25日)
2015年5月中旬にスマが再投入されました(左下の写真で、左側の群れ)。クロマグロは1匹のみです。
2015年6月21日夜、1歳魚77尾が再投入されました。餌付けされ、アクリル板にぶつかることなく水槽に慣れることを期待しています。(2015年6月22日)
新たに投入された1歳魚も水槽に慣れてきました。アクリル板衝突防止テープの半分が剥がされました。競って摂餌するようになり、体重の2~3%に相当する生餌が給餌されています。(2015年7月23日) 毎日の様子が葛西臨海水族園から公表されています。ご確認の上、お出かけください。
・新江ノ島水族館 相模湾大水槽ではクロマグロが遊泳しています。
・名古屋港水族館 南館2階黒潮水槽に、近大マグロ(クロマグロ)を展示しています。 クロマグロの存在が、同じ水槽で展示しているイワシの行動に影響しているとの報道(朝日新聞2013年3月27日、29日)もあります。
・沖縄美ら海水族館 大水槽で遊泳しています。
・海遊館 近大で孵化したクロマグロを展示しています。
マグロ養殖で実施している作業についてこちらのページで紹介しています。
世界と日本でのマグロ類の漁獲制限については、こちら で紹介しています。